映画 ハイ☆スピード!-Free! Starting Days-

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脚本・西岡麻衣子インタビュー
時間の流れを意識し、彼らの感情を丁寧に追って書き続けていくのはとても大変なことだなと感じました。

――長編の執筆は今回が初挑戦になったようですが、率直に感想をお聞かせください。

やはりとても大変でした。TVシリーズの脚本は今までに何度か担当させていただいたので自分なりに感覚を掴んでいたところもあったのですが、長編は尺などの感覚がつかめず苦労しましたね。物語の起承転結をどこに持ってくるかなども悩みどころでした。

――長編を書くリズムというのは、すぐに掴めましたか?

少し時間がかかりました。長編には切れ目がないのでそこが大変でした。
長編は、一度始まってしまえばノンストップなんですよね。TVシリーズですと、CMを挟んで、その前後でキャラの感情に大きな変化があっても、その差を気にせずそのまま続け易いのですが、長編だとそういうわけにはいきません。時間の流れを意識し、彼らの感情を丁寧に追って書き続けていくのはとても大変なことだなと感じました。
やはり長編とTVシリーズとでは全然違いますね。ですがすごくいい経験をさせていただいたと思います。脚本を書くということは、小手先の技が通用しないということを改めて実感しました。

高校生の遙、真琴を描いた後で、彼らの4年前の姿を描くというのは本当に難しかったです。

――TVシリーズ(『Free!-Eternal Summer-』)でも各話シナリオ(5話)を担当されていましたが、中学生の遙と真琴はいかがでしたか?

彼らの気持ちを丁寧に追うように心がけて書いていく中で、一番描くのに苦労したのが遙と真琴でした。今までTVシリーズ(『Free!』『Free!-Eternal Summer-』)を見て下さった方々、小説(『ハイ☆スピード!』)を読んで下さった方々の中で、すでに遙像、真琴像というものが確立されていると思うんです。なので「遙らしい」「真琴らしい」と受け入れてもらえるようにする必要があるなと感じて、彼らの描写にはかなり悩みました。高校生の遙、真琴を描いた後で、彼らの4年前の姿を描くというのは本当に難しかったです。
中学生や高校生の間って、劇的な変化をする時だと思うんです。その時期に得たものは、自己を形成する要素として大きく影響するというか。当時の彼らは何を思っていたのかを考えていく中で、正解というものはないんじゃないかと思い始めたんです。「遙らしさ」「真琴らしさ」の根本は変わっていないはずだと思って。
それから「不安定さ」が思春期の一番の魅力だというところに思い至りました。
自分が体感したことのない感情は絶対に脚本にも盛り込めないと思っているので、自分の中学生、高校生当時を振り返って、あの頃何に一生懸命になっていたか、何に悩んでいたのかということを思い返したりもしました。どんな時に悔しくて、どんな時に成長できたと感じたかということなどは、物語を構成する上で大きなヒントになりました。
遙と真琴については、TVシリーズ等のベースがある分、書きやすさも勿論ありましたが、土台がきっちりと出来上がっているからこその難しさもありました。
今回の『映画ハイ☆スピード!』では遙と真琴の過去を描くということで、彼らがどんな人物なのかということを深く深く掘り下げて考えました。高校生だからこそ受け入れられたこと、受け流せたことでも、中学生だと真正面からぶつかって怪我をすることもあったんだろうな、と考えたりもして。中学生ならではの若さ、青さを表現できればと思いながら書いていきました。
遙も真琴も、高校生の時よりも更に感情表現が素直かなと思います。思ったことを素直に口に出したり、他者の反応にピリピリと神経を尖らせているような張りつめたところがあったり。最初は二人のストレートな感情表現に珍しさを感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、そこも含めて若さかなと思っています。

――中学生と高校生の違いをどのように感じましたか?

中学生は「幼い」ですね。青春のはじまりともいえる時期だからこその難しさもありましたが、書いていてとても楽しかったです。彼らが困難にぶつかっている時には、思わず「頑張れ!」と応援したくなってしまったり。
高校生は大人に近づいてきているので、共感できるところもあって、そういった面では書きやすかったです。
どちらにもそれぞれの魅力と難しさがあるなと思います。

――中学生の「思春期感」はいかがでしたか?

中学生、すごくキラキラしてますね!
先ほど不安定さが魅力だとお話しましたが、その不安定さというのはピュアさにも繋がっているなと感じて、そんな彼らを見ていると心が洗われる思いでした。

素直でまっすぐなので、
旭はある意味一番安心して描けました。

――旭を描くにあたって監督からどのような要望がありましたか?

監督と二人で旭像を語った時、「こういう性格だろう」という認識が一緒だったんです。方向性はその時点で固まっていたので、すんなり決まりました。旭はとにかく元気に、明るく!という感じです。悩んだことに対してでも一直線にぶつかっていくというか。素直でまっすぐなので、旭はある意味一番安心して描けました。
映画の特報映像やPV等を見て下さった方もいらっしゃるかと思いますが、旭は動いて喋っている時が一番魅力的です!映画を観ていただければ、旭の魅力は存分に伝わると思っています。

――特に意識されたのはどんなところでしたか?

ウジウジしないように、というところでしょうか。悩むにしても、前向きに!と。
例えば壁に直面したときに、そのことをくよくよ考えるのではなく、乗り越えるためにいろんな方法を試してみようと、頑張ってもがき続けるタイプだと思います。たとえどんなに悩んだり落ち込んだりしていても、旭の根本にはポジティブに立ち向かっていく気持ちが必ずあるということは意識しながら書いていきました。

――旭について、西岡さんが魅力だと思うところは?

旭はとにかく魅力的です!友達と話すのも遊ぶのも泳ぐのも、いつでも全力全開なところがいいですね。でも実は繊細さも持っているんです。
自分の悩みに背を向けず、前向きにぶつかるところが旭の魅力だと思います。

郁弥は4人の中で一番中学生っぽいんじゃないかなと。

――郁弥を描くにあたって監督からどのような要望がありましたか?

監督からの要望としましては、無邪気な感じのキャラにしたいというようなことでした。ただ、それでは、郁弥という人物の悩みどころ、端々に出るヒネた言葉、他者を突っぱねる様子が描きにくくなってしまうんです。
それは、私のなかで郁弥のイメージがある程度固まっていたこともあるんですが、小説にもある「遙に似ている」部分を生かしたかったのもありました。
コミュニケーションが苦手というか、自分の思っていることを素直に表現するのが苦手な子、という感じで。反抗期の子を描きたかったんです。
ですので、当初にあった監督の要望通りではなくなってしまっているのですが、それは、打ち合わせを重ねていきながら、郁弥像を固めていきました。
どんなキャラにするかということが決まってからは早かったです。

――特に意識されたのはどんなところでしたか?

郁弥は感情の起伏が激しくて、意固地になっているところがあるので、そんな彼の気持ちがどんな風に変化していくのか?というところを丁寧に描くように意識しました。
反抗期だからヒネたことを言ったりもしますが、郁弥も根は素直なんです。いじけているのを隠さないところにはその素直さが表れていると思います。郁弥もピュアですね。

――郁弥について、西岡さんが魅力だと思うところは?

郁弥は4人の中で一番中学生っぽいんじゃないかなと。そこが魅力的だと思います。喧嘩しても、相手が本当に傷つく言葉は使わないところは郁弥の優しさかもしれないですね。

心の底からまっすぐにぶつかり合っていける相手がいるって、すごくいいですよね。

――[映画 ハイ☆スピード!-Free! Starting Days-]の見どころを教えてください。

4人とも性格は違えど、みんなピュアなところです!
監督からはずっと「とにかくキラキラで!」という要望があったので、キラキラにできるように心がけました。
私自身、最初は「この4人がどうやってチームになるんだろう?」と思って悩んでいたんですが、物語を考えていくにつれ、だんだんと彼らの共通点や「この子のこういうところはあの子が分かってくれそう」とか、そういう発見があって。そうしていくうちに「この4人、めっちゃ仲良しなんじゃない?」と思うようになりました。なので彼らが少しずつ互いを知って、距離を縮めていく様子は見どころだと思います。
幼さも可愛らしさもピュアさも全部ひっくるめて青さだと思います。そこが魅力でしょうか。

――彼らの仲の良さの秘訣は何だと思いますか?

信頼だと思います。「自分をさらけ出す」って、気心が知れていないとできないことですよね。厳しいことも、相手が自分のことを分かってくれていなければ言えなかったりとか。なので、彼らが言いたいことを言い合える間柄なのは、仲の良さや相手への信頼があるからこそだと思います。
心の底からまっすぐにぶつかり合っていける相手がいるって、すごくいいですよね。彼らはウマが合っているからこそ、本能的に相手との距離感を測って、気遣いを忘れず接することができるのかなと。

――皆さんにメッセージをお願いします。

笑ったり泣いたり怒ったりと、表情豊かな4人がたくさん詰まった映画なので、ぜひ観に来て頂ければと思います。

――ありがとうございました!